『いじめRPG』第8章 探偵ハート 左子光晴
探偵ハート
ステージ④ダンジョン:伝説の装備を集める旅に出る
→いじめの証拠を集める
「あ、カマキリ?久しぶり。あのさ、今ちょっと時間あったりする?ちょっと困ったことがあってさ。うん、うん。え?近くにいるの?よかった!ビールおごるから!え?何それ。ははは。わかったわかった。うん、いいと思うよ。」
カマキリ?なんだそれ?
「そうなんだよ。だから助けてほしくてさ。うん。ありがと。はい、じゃあ待ってまーす。」
ミチロウさんはにこっと笑った。いつものミチロウさんだ。よかった。
「カマキリって誰ですか?」
「昔の知り合いで、今でもたまーにうちに来る友達なんだけどさ、彼面白いよ。もう少ししたら来るからさ、それまでちょっと待ってて。」
「わかりました。」
「あ、そうだ。ノートありがとう。すごく面白かったよ。」
「ほんとですか?」
「うん。たぶん川村くんが読んできた作家さんをボクも読んできたからさ。好きなのが似てるのかもね。」
「よかったです。ミチロウさんはいつ頃から本を読み始めたんですか?」
「高校くらいかな?友達が「何でも見てやろう」って本を貸してくれてさ。それがめちゃくちゃ面白かったのがきっかけで。」
「それなら僕も読みました!」
「その影響もあって、高校卒業してからお金を貯めていろんな国を旅したんだ。その旅先でカマキリと知り合った。カマキリは一文無しで海外を飛び回るバックパッカーで、いい意味でボクの常識をぶっつぶしてくれたんだ。」
「へー。どんな人なんですか?」
「なんて言ったらいいかな…キャラ渋滞してる人かな?。」
「なんですかそれ?」
バンッと勢いよく扉が開いて、黒のジャケットに緑の派手なシャツ。黒い革のパンツにウエスタンブーツを履いた、見るからに面白そうな人が現れた。
「マイブラザーミチロー!元気か?うれションしてんじゃねーのか?」
「久しぶり。カマキリは元気そうだね。」
「禁酒法は日本にはないのかい?とりあえずビールをくれ!今日は1ガロン飲み干してやるからよ。で、この坊やが依頼者かい?」
「は、はじめまして…か、川村です…よろしくお願いします。」
この店には変な人しか集まってこない。その中でもカマキリさんはダントツに変な人だった。リーゼントというのを生で初めて見た。マッカーサーのようなサングラスに、たくましいもみ上げ。顔だけは猛々しいのに、手足がものすごく細長くて、たしかにカマキリのようだった。
「あ、ちなみにカマキリのあだ名の由来だけど、見た目じゃないからね。海外でお金がなくてカマキリ食べてたとかいろんな由来があるんだ。あの時はまじで吐きそうになった。はい、ビール。」
「一人チアーズ。で、坊や。カマキリ食べたことあるかい?」
「あ、いや…ないです…」
「尻をちょんちょんと水につけてから食うんだぜ。カマキリの中にはハリガネムシって寄生虫がいるからな。気をつけて食えよ。」
「いや、たぶん大丈夫です。」
「そうか。それなら安心だ。はっきり言ってディスカウントストアのホットドッグのほうが断然うまいからな。はっはっはっは!で、おいらに助けて欲しいことってなんだい?銃でも必要か?」
そう言ってカマキリさんは胸ポケットから銃を取り出した。カウンターに置いたときの音に重量感があって、僕はびくっと震えた。この人なら持っててもおかしくない。
「いいかい坊や。銃ってのはな、横に向けて撃つと薬きょうが顔をかすめてケガしちまうんだ。最悪失明だってするかもしれねーしな。ダイヤモンドを眼球にはめたくなけりゃ、両手でしっかり握って脇を締め、肘を伸ばすんだ。そしていじめっこの胸目掛けて、引鉄を引け。こんなふうによ!!」
ぱきゅーん
え?
ものすごくファンシーな音がした。
「ごめーん。なんか面白いかなと思ってやっちゃった。初めましてカマキリです。よろしくね!」
「一人称おいらって何?ていうか何を意識したキャラだったの?」
「テキサスの荒くれ者をイメージしたんだけど!変だったかしら?」
「にしては細いし、ディスカウントストアのくだりもよくわからないし。」
「最近依頼が無かったから尾行の練習を毎日してるんだけど、普通にやってもつまんないなと思ってさ。で、どこまで大胆な格好だったらばれるかを検証してたんだけど、ミチロウから電話かかってきたせいで、見られちゃったのよん。いいとこだったのにー。」
カマキリさんは声のトーンが高くなり、さっきとは打って変わって中性的なキャラクターになった。そういう意味でもあるのかな。二人は楽しそうに会話していて、僕ははめられた恥ずかしさで顔を赤くした。
「ごめんね川村っち!こう見えて案外仕事はできるから!で、相談はなんざんしょ?」
「ミチロウさんどういうことですか?」
「ステージ④では魔王を倒せる唯一の武器、伝説の装備を集めるんだ。つまり絶対的ないじめの証拠を集めるということ。この前スマホで会話を録音するっていう話をしたんだけど、それも伝説の装備の一つ。そこで証拠集めのプロにアドバイスもらったほうがいいかなと思ってさ。カマキリは探偵なんだよ。」
「ドラマとか漫画の世界だと思ってた?探偵ってほんとにあるのよん。でね、川村っちを助けるためにここに馳せ参じたってわけ!」
「探偵…」
抱いていたイメージとあまりにもかけ離れすぎていて…何がなんだか…
「ミチロウがなんて教えたか知らないけど、ただただいじめっ子との会話を録音しても意味無いのよん。」
「そうなんですか?」
「例えば暴力を受けたとする。そこを動画に撮れればいいんだけどそれはリスクが大きいでしょ?じゃあ録音のほうがいいやってなっても、音声だけで誰にどんな被害を受けたかを判別するのは難しいのよん。」
「なるほど…」
「そんなこんなで、川村っちにいじめ証拠集めのテクニックを伝授してほしい、って感じかなミチロウ?」
「そういうこと。ごめんねカマキリ。」
「ミチロウの頼みは断れないっしょ。それに最近いじめの案件増えてんのよん。」
「そうなんですか?」
「最近は直接のいじめだけじゃなくて、SNSとかネット掲示板とかバーチャル上のいじめが主流になり始めてさ、学校や親だけでは解決できないケースが多いのよね。」
「僕はSNSとかしないから、そこは心配なさそうですね。」
「掲示板とかも見ないほうがいいわね。ほっときゃいいのに見ちゃうから嫌な気持ちになるのよん。」
「そうします。」
「じゃあさくさくーっと作戦会議始めちゃいましょうか!」
「はい!お願いします!」
「素直でかわいいわね、川村っち!」
これもキャラなのか?
「さて、目的はいじめを終わらせることとしてまとめなきゃいけないのは4つね。1.ターゲット。2.X day。3.証拠集めの方法。4.制裁レベル。」
「ターゲットは山口グループと、森川先生ですね。」
「りょうかーい。で、X dayはどうする?ターゲットをより確実に屈服させるには、できるだけ長い期間をかけたいとこなんだけど…それまで川村っちがいじめに耐えられるかが問題よん。」
「…1日でも早いといいなって…」
「そうよねー。じゃあとりあえず1週間後ってことにして、証拠が集まり次第勝負といきましょうか!」
「…はい。それでお願いします。」
「おっけー。じゃあ次は証拠集めの方法ね。」
「すいません。そもそもなんですけど、いじめがあるってことを校長先生や教育委員会とかに言えばいじめっ子たちや先生は処分されるんじゃないんですか?」
「NO.NO.それだと甘いんだー。いじめはね、言い換えれば数の暴力なのよん。自分に不利になるようなことを人は素直に認めないでしょ?だから川村っち一人がぴーぴー騒いでも、山口きゅんたちは口裏を合わせたり、学校側はそんな事実は報告されてなかったーとかっていくらでも言い逃れできちゃうのよん。悲しいねー。」
「そうなんですね…」
「そこで!川村っち一人でもやつらを倒せる伝説の武器とやらを集めなきゃいけないの。やつらがぐうの音も出ない最強の証拠。それ使ってやつらのお尻を叩いちゃいましょ!」
「はい!」
「川村っちには「いじめ三種の神器」を集めてほしいのよん。」
「なんですかそれ?」
「1. くさったの日記。2.やられたの物。3. やったのレコーダー。この3つが集まったらもう言い逃れはできない。学校との話し合いは勿論、民事訴訟でもほぼ確実に勝てるわ。」
「ほんとですか?」
「槙原もびっくりの完全試合よ。そこでまず一つ目のポイント。いじめの証拠は5W1H。誰がやったか。何をされたか。いつやられたか。どこでやられたか。なぜやられたか。どのようにやられたか。これを明確にしよう。」
「難しそうですね…」
「川村っちなら簡単に理解できるわ!じゃあいじめ三種の神器に当てはめて説明していくわね。まず、「くさったの日記」では、自分が腐っていく様子を日記に書いてもらうわ。」
「腐っていく?」
「いじめを受けたことで心や身体が腐っていきましたーってのを報告しちゃうの。つまり精神的苦痛を受けた、身体的苦痛を受けた、というのを立証するのが目的。」
「なるほど。」
「いじめが始まってから、学校に行くのがつらいとか、朝起きるとお腹いたいーとか、そういう症状は無かった?」
「ありました…昨日も家を出るときになって急に嫌な気分がして…」
「典型的な軽鬱ね。自分でも気づかないうちに心を病んでいくのよん。学校に行くといじめられるから、身体が信号を出すの。行かないほうがいいよーって。でもまわりはその苦しさをわかってくれないから、仮病だろ。とか、みんな悩みの一つや二つあるんだから甘ったれるな。とか平気でひどいことを言ってくる。そういう二次被害で苦しんじゃう子もたくさんいるのよん。」
「母さんはそんなこと言いませんでした。」
「いいママね。それがあったからギリギリのところで心をつぶされなかったのよん。ママに感謝なさい!」
「そうですね…」
「と言った、ことを細かに記すのが「くさったの日記」。そしてこの日記をまとめる時にさっきの5W1Hを意識する。例えばこうよ。」
7月1日。
僕は何もしてなかったのに、山口に教室でキモイと悪口を言われた。
「これだと、いつ→なぜ→誰が→どこで→どのように→何を、ってのがまとまってるでしょ。その上で…」
7月1日。
僕は何もしてなかったのに、山口に教室でキモイと悪口を言われた。
それから胃が痛くなって晩御飯が食べれなかった。
「こう書けば、山口きゅんのいじめが原因で胃を痛めたってことがわかるでしょ?」
「それならできそうです!」
「もし病院とかに通院した記録があれば、診断書とかも一緒に添付するといいわね。」
「病院には行ってないですね。」
「そう、それはよかったわ。こういう書証があると、いじめを流れで終えるから便利なの。辛いかもしれないけど、いじめに遭ったら日記を書く。これ覚えといて。」
「わかりました!」
「いいお返事!じゃあ次は「やられたの物」で物的被害を告発するわよん。川村っちは現物としていじめの証拠になる物持ってるかしら?」
「うーん…落書きされた教科書とか、破られた本とかって使えますか?」
「いいじゃない!「やられたの物」のポイントはとにかく被害を受けた現物をその状態のまま保管しておくこと。残しづらいものがあればスマホのカメラでばんばん撮影しちゃうのよん。被害の内容はそれで証言できる。あとは山口きゅんたちがやったって裏づけがとれれば完璧なのよん。」
「筆跡鑑定とかってできないんですか?」
「訴訟すれば可能かな。あたしたちでもできないことないけど、そこまでしちゃう?数十万かかるわよん?」
「あ、それは…」
「これいじめ問題の難しいところでね、物的被害って裏づけとなる証拠がないと立証するのが難しいのよん。本人が自白すれば証拠がなくてもいいんだけど…なかなか自分に不利なことは認めないでしょ?なんとでも言い逃れできちゃうのよねー。まわりの証言とかがあればいいんだけど、いじめを傍観しているような子たちが手を貸してくれる可能性がそもそも低いからさ…」
「まわりは助けてくれないと思います。」
「残念だけど、あまり期待しないほうがいいかもね。」
「ちなみに過去の被害でも証言をとれれば立証できますか?」
「それは可能性がぐっと上がるけど、どうするのよん?」
「例えばですけど、山口たちのところに教科書を持っていって、山口くんどうして落書きするの?って聞くとか。」
「できるならいいと思うけど、なかなか難しそうじゃない?もしできるならやってみて!」
「…自分で言っておきながら、やっぱり厳しそうですね…」
「やられたの物を見せて山口きゅんたちが自白すればラッキーくらいの気持ちで、とにかくいじめの物的証拠は残すこと。オッケー?」
「おっけーです!」
「よろしい。じゃあ最後にあたしたちの切り札、「やったのレコーダー」ね。やつらが「いじめをした」と証言してる音声を録音するってわけ。」
「理解できるんですけど、それって素直に認めますかね?」
「ここがプロの腕の見せ所なのよん。「やったのレコーダー」を使うときは5W1Hで会話をする。さっきの例で言うと、山口きゅんたちが川村っちに悪口を言ったとするでしょ?そしたら川村っちは、山口くんどうして悪口言うの?と言えばいい。これで誰が、何を、の条件を満たせる。次に山口たちはお前がキモいからだよとか反論してくるはずだから、これでなぜ、の理由を満たせる。こんな風に、向こうが5W1Hを発言してこないときは、こちらから発言するように誘導していく。そうすれば音声だけでも証拠能力がぐんと上がるってわけ。」
「すごいですね!」
「すべての要素を満たすのはなかなか難しいかもしれない。それなら、誰が、何をしてきたか、っていうのだけでも録音できればいいわ。山口くん殴らないでよ、とか、山口くんお金取らないでよ、とか。相手の名前と、何をされたを口に出すこと。そうすればいじめの事実を立証できるのよん。」
「それだけならできそうです!」
「川村っちえらーい!てことで、これをプレゼントしちゃうわ。」
カマキリさんは胸ポケットから黒色の小さなレコーダーを取り出した。今度は銃ではなかった。
「家を出たらここをオンにする。学校を出て、猿タコスか家に帰ったらここをオフにする。そうすれば学校外でいじめに遭っても録音できるでしょ?」
「これもらっていいんですか?」
「いいのいいの。スマホだと充電が切れちゃう可能性もあるからね。録音も長時間できるし、10時間くらい余裕で充電も持つわ。レコーダーって今すごく安くて、3000円で身を守れるって考えたらボクシング習うよりお得よね!ほんとはあたしも手伝いたいんだけど、第三者が手伝うと盗聴だーとか言われちゃってさ。ちとめんどうなことになるからこれはプレゼントしちゃうわ!」
「ありがとうございます!」
「喜んでる場合じゃないわよ川村っち!ミチロウから聞いたけど、山口たちを前にしたら固まっちゃったんだって?」
「あ…はい…」
「怖いわよね…わかる。あたしもヤクザ10人に囲まれたときはさすがに声でなかったもの…」
「いや、そこと比較されても…」
「探偵になったと思いなさい!」
「どういうことですか?」
「いじめられてると思うから卑屈な気持ちになる。だけど川村っちは探偵なの。学校に潜入していじめっ子たちの不正を暴き、きつい一撃をお見舞いするために証拠を集める名探偵。そう思えば、いじめられることに意味が生まれる。いじめられてるんじゃない。いじめさせてるんだ、って。」
「いじめさせてるか…」
「プラシーボでも気休めでもなんでもいいから、とにかく胸張って証拠集めなさい!」
「はい!」
カマキリさんはなよなよしたしゃべり方だが、びしっと言う時には迫力があった。
「じゃあ最後に制裁レベルを決めちゃおっか!レベルによって戦い方が変わるわ。」
「どういうレベルがあるんですか?」
「1.注意処分レベル。教育委員会にいじめの証拠を提出すれば、当事者への停学・ないし退学処分。あと当該教師と管理職の懲戒処分ってとこかな。このときいじめがあったかどうかの調査が行われるんだけど、事実否認や最悪隠蔽する可能性もあるから気をつけないといけないのよん。そうなった場合は報道メディアや議員、文科省とかを巻き込む必要があるかもね。」
「そんな上の人たちまで巻き込まなきゃいけないんですか?」
「最悪の場合はね!まぁそこまでこじれないように、川村っちには三種の神器を集めてもらうというわけ!アンダースタンド?」
「はい!」
「じゃあ、2.金銭解決レベル。訴訟を起こして民事事件として扱っちゃう。示談に持ち込めれば、わりとスムーズにまとまったお金をとれちゃうわ。川村っちのためだったら良い弁護士も紹介しちゃうわよ!」
「訴訟となった場合はどれくらいの期間がかかるんですか?」
「そうねー。場合にもよるけど長いと数年って感じかなー。」
「そんなにかかるんですね…」
「そうね。裁判って大変なのよん。じゃあ次に、3.檻にぶちこんじゃうレベル。警察に被害届を出し、刑事事件として扱わってもらったうえで当事者を少年院か刑務所にぶちこむってわけ。だけど捜査をしてくれるかどうかもわからないし、捜査が始まっても事件性がないと判断されれば刑事事件にはならないわ。」
「なるほど…事件として扱われない可能性もあるってことですね。」
「その通り!これまた裁判にはけっこうな時間がかかるわ。ラストは、4.終了のお知らせレベル。SNSや掲示板にいじめの内容と当事者を特定できるかできないかのぎりぎりの情報をばらまいちゃうの。自称正義感の強い人や、お祭り大好きな人には格好の餌になるわ。自宅への嫌がらせによる転校、引越し。テレビとかにも取り上げられれば、就職できない、結婚できないとか、一生罪の十字架を背負わせることもありうる。だけど人を呪わば穴二つよん。」
「なんですかそれ?」
「川村っち自身も標的になる可能性があるわ。当事者と同じ人生を歩んじゃう可能性も加味して検討したほうがいいわね。」
「…わかりました。」
「制裁レベルはざっくりこんな感じかしら。もし川村っちが望むなら、怖いおにいさんに山口きゅんたちを教育してもらう…なーんてこともできちゃうけどいかがかしら?」
「いや…けっこうです…」
「あら、そう!ってことでどーしちゃう?何レベルでいく?」
「うーん…ちょっと考えさせてください…」
「もちろん!あたしのこともミチロウのことも気にしなくていいから。川村っちがどうしたいか、それに素直になればいいわ。ちなみにあたしだったら…」
「カマキリさんだったら?」
「今流行の4.かなー!ほらあたしって性悪説信者じゃない?彼らが大人になったら社会にマイナスを与えること間違いないでしょー。だ・か・ら、きっついのお見舞いしたげるの!」
「…つまり社会のために裁くと。」
「おみごとでーす!X dayまでゆっくり考えてちょーだい。てなわけであたしのレクチャーは以上。サンキューエビバディー、昭和最後のひょうきん者カマキリでしたー。」
「ありがとうございました!」
「感謝するなら身体くれ!」
固まる僕を見て、カマキリさんは冗談冗談と笑い、ビールを飲み干した。会話を終えた僕たちを確認して、ミチロウさんはいつものあれをした。
パパパーンパンパッパーン。
「勇者川村は、ミッション「いじめ三種の神器」をスタートした。装備「レコーダー」を手に入れた。装備「探偵ハート」を手に入れた。」
「あたしはあたしは?あたしもなんかレベル上げてよ!」
初めてこのくだりに反応する人がいた。
そのあと明日の作戦を立てた。
それはきわめて困難なものだったが、しっかりと逃げ道も用意されていて、とてもじゃないが一人では考えられない素晴らしい作戦だった。3人で話していると、なんだかできそうな気がしてくる。
帰り際にミチロウさんは、「朝から開けとくからいつでもおいでませ。」と優しい言葉をかけてくれた。カマキリさんは「レコーダーを回している間は、いじめてくれてありがとうございます、くらいの気持ちでいなさい。」という変なアドバイスをくれた。「その受けた痛みをあとあと100倍にして返せるから。」
ここに来る人たちはみんな僕を助けてくれる。僕も誰かのために、何かできる人間になりたいなと思った。
帰宅すると22時をまわっていた。
「おかえり。遅かったわね。」
「ただいま。ごめんね。」
「どうだった?」
「明日からいじめの証拠を集めることになった。」
「大丈夫なの?」
「大丈夫!レコーダーも貸してもらったし、方法も教えてもらった。」
「いや、そうじゃなくて一人で大丈夫なの?」
「…なんて言うかさ、僕は今までいろんなやらなきゃいけないことから逃げてきた気がするんだ。だから今回は自分でできるところまでやりたいんだ。」
「俊樹…強くなったね!」
「そんなことないよ…でも少しづつ良い方向に変わってきてると思う。」
「そうね。すごいと思う。母さんにできることがあったらいつでも遠慮せず言うのよ!」
「来週の月曜日に校長や教頭を交えて話し合いをしようと思う。もちろん証拠を持って。そこには母さんも一緒に来てほしい。」
「了解しました!」
「あ、あと…」
「どした?」
「お腹空いた。」
母さんはふふふと笑ってうどんをつくってくれた。ここからしばらくは僕一人の戦いだ。きっとうまくいかないこともある。だけどここで負けない。僕は変わりつつある。大丈夫。
スマホを見ると2時間前にメールが入っていた。「読みました。めちゃくちゃいい!!上に見せたら反応もよかった。連載とれるかもしれないから、続き書いといて。褒めてつかわす。 すけ」
信じられない…連載とれるかも…興奮した。いじめられっ子の僕が雑誌で連載を持つなんて、誰が想像できた。すごい…すごいじゃないか!
連載を続けるためにも、いじめを解決するしかない。これで戦う理由がまた増えた。やってやるぞ。僕は勢いよくうどんをすすり、机に向かった。
ステージ④ダンジョン(未クリア)
ーカマキリさんがパーティに加わった
ーミッション「いじめ三種の神器」がスタートした
ー装備「レコーダー」を手に入れた
ー装備「探偵ハート」を手に入れた
僕はぼうけんのしょにセーブした。