企む職員室。[studioあおブログ]

企みつつ、育てています。

スイカ割りに学ぶ作品づくり

子ども関連のお題に、あたしが好きに答えるコラム連載。今回は「スイカ割り」   

 

イカ割りは子ども向けエンタメとしてよくできている。

緑と黒の表皮におおわれた球体が割れると、中から赤い果肉が出てくる。暗色が明色に変わるサプライズ感がここちよい。

人は棒をにぎると振りたくなるもので、そのアフォーダンスがスイカを割るという目的に沿っている。目的と手段の関係に無理がない。

目隠しをされ、棒を軸にしてクルクルとまわる姿がとても滑稽でかわいらしい。

視界と平衡感覚を失ったプレイヤーがよたよた進んでいくさまに、ちゃんとスイカを割れるのかとドキドキする。

 

それでいて、スイカ割りにはほんとか嘘かわからないけど、とんでも起源がある。諸説あるうちの一つが、ところは中国。時は三国志の時代。敵側の戦意を喪失させる目的で、自軍の残忍さをアピールする儀式があったそうな。戦の前に、罪人の身体を砂に埋め頭だけを出し、その頭を叩き割るという。あまりに残虐だと思った諸葛亮は、罪人ではなくスイカを叩き割るように変えた、というのがスイカ割りの起源だそうで。飛び散る赤い果肉がたしかに、遠くから見たら脳漿が飛び散るように見えるのかもしれない、なるほど。

 

まぁホントかどうかはこの際どっちでもよくて。この「スイカ割り」には、子ども向けエンタメづくりに必要なことが詰まってる、と考えたのが今日のおはなし。清水煩悩という東京のアーティストがいま、うちに泊まりに来ている。彼がアンパンマンの作者、やなせたかしのこんな言葉を教えてくれた。「子どもは気づいている、言わないだけ。」

 

これはとても興味深い。あたしテーマパークでイベントの台本を書く仕事をしてるのだけど、子供も楽しめるアトラクションをつくるときってどうしても、子どもでもわかるように簡単に作ろう、としてしまう。でもこれは大きな間違いで。子どもはうまく言葉にできないだけで、ストーリーも理解してるし、言わんとしてるメッセージも読み取ってるんじゃないかなって。そんな仮説。

 

仮面ライダーアギト」とか「ミュウツーの逆襲」とかも、子ども向けでありながら、そうとうストーリーが複雑で。メッセージも肉厚で。あたしは、こんなもん子どもにゃわからんやろ、って思っていた。子どもが楽しんでいるのは単純に、アギトの変身シーンがかっこいいから、とか、悪者を倒すところが気持ちいいから、だと。ポケモンがかわいいからとか、ピカチュウとクローンピカチュウがビンタし合うシーンが感動するから、とか。要は、見て・聞いてすぐにわかる「子ども向けフック」のみで楽しんでいると。

 

アギトが人間からも悪者からも嫌われる物悲しさとか、人間のエゴで生み出されたミュウツーの怒りとか、っていうストーリーやメッセージを子どもは理解できないだろうと。もっと言うと、「見た目とか声とかの子ども向けフックで楽しませとけば、理解力の必要なストーリーとかメッセージは作り手の好きにしていいっしょ。」って大人たちが悪い笑みを浮かべながら作品つくってたんじゃないかと。そんな風に考えていたのでした。

 

だけども、そうじゃないなと。子どもはストーリーやメッセージも、大枠は理解して楽しんでいるのだろうと。そのほうが、ぶってえストーリーの子ども向け作品がヒットする理由に納得がいく。つまり、よく言われる「子ども向けにわかりやすくしよう」というのは、子ども向けフックはわかりやすくしつつ、ストーリーやメッセージは難解でもいいよ、ということなのだ。子ども向けの文章にあてはめるならば、かんたんな言葉づかいと、読みやすい改行、などを用いて、見やすく読みやすくする。そのうえで内容は、あたしら大人が「おー、なるほどー」と知的に楽しめるものを書く。

 

このあたりの加減が「スイカ割り」はすんごくうまい。スイカが割れる派手さとか、色が変わるサプライズ感とか、目隠しした人がクルクルまわる滑稽さとか、パッと見でわかる情報はわかりやすくしておく。それでいて、実は人の頭を叩き割る…みたいなストーリーラインは、子ども向けとは言い難いものを据えている。

 

要すると、相手が子どもだからってなめたモノをつくるな、ということだ。そのナメた態度は子どもにバレている。うまく言葉にできないか、実は私たち大人に気を遣って黙っておどけているか。そう言えば、クレヨンしんちゃん野原しんのすけは「やれやれ、子どもだましだな。」とよく言っている。子どもと言えど読者であるならば、敬意をもって書くのです。

 

いきがって難しい言葉をこの連載でも使っていたけど、よほど意図がないかぎりは使わないようにします。studioあおの生徒にも、あたしのこの連載読んでほしいので。反省。「アフォーダンス」はなんか知ってたらカッコイイから、覚えてほしいなと思いつかいました。

 

そう言えばスイカ割りには公式ルールというものがあるそうで、今は使われていない1991年版では、「スイカと競技者の間の距離は9m15cm」と決まっていたようだ。

 

いや、その15cmなに!?

 

ここにもぶってぇストーリーがありそうだ。f:id:stud-io:20190804172522j:image